「同じ気持ちでいてほしい」のに、ズレてしまう
不妊治療を進めていく中で、パートナーとの間に温度差を感じることは珍しくありません。「自分ばかりが必死になっている」「相手は他人事のようだ」という思いを抱えている方は、決して少なくないのです。
ただ、その温度差には理由があります。相手を責める前に、なぜズレが生まれるのかを知ることが、二人で向き合うための第一歩になるかもしれません。
温度差が生まれる主な理由
身体的負担の非対称さ
不妊治療では、検査・投薬・採卵・移植など、身体的な処置の多くは女性が受けることになりますが、通院の送迎やスケジュール管理の共有、採卵日の仕事調整など、パートナーにしかできないサポートがあります。毎日の注射や薬の副作用、採卵時の痛みといった体験は、パートナーが直接共有することが難しいものです。この「体験の非対称さ」が、温度差の大きな要因のひとつとされています。
情報量と関わり方の差
治療に関する情報を積極的に調べている方と、クリニックで言われたことだけを把握している方では、治療への理解度や切迫感に差が生まれます。通院のたびに新しい情報に触れる側と、結果だけを聞く側では、見えている景色が異なるのは自然なことです。
感情表現の違い
つらさや不安の表し方は人それぞれです。言葉にして共有したい方もいれば、黙って消化しようとする方もいます。「何も言ってくれない=何も感じていない」とは限りません。ただ、表現の仕方が違うだけで、すれ違いが大きくなることがあります。
よくあるすれ違いのパターン
- 「もっと調べてほしい」「もっと関わってほしい」と思うが、相手にどう伝えていいか分からない
- 治療の話をすると空気が重くなるので、お互い避けてしまう
- 一方が「次のステップに進みたい」と思っているのに、もう一方が慎重になっている
- 結果が出なかったとき、片方は落ち込み、もう片方は「次があるよ」と切り替えようとして、かえって傷つけてしまう
- 周囲からの「子どもはまだ?」という言葉への受け止め方が二人で異なる
こうしたすれ違いは、どちらかが悪いわけではなく、立場や感じ方の違いから自然に生まれるものです。
話し合いのヒント — 「責める」のではなく「共有する」
温度差を縮めるためのポイントは、相手を変えようとすることではなく、自分の気持ちを伝えることです。
- 「あなたは何もしてくれない」ではなく、「私は今こういう気持ちでいる」と自分を主語にして伝える
- 治療の専門的な話ばかりではなく、「今どんな気持ち?」と感情に焦点を当てて話す
- 一度にすべてを解決しようとしない — 少しずつ、回数を重ねて共有する
- 相手の沈黙を「無関心」と決めつけず、「どう感じているか聞いてもいい?」と問いかけてみる
- 話し合いの後に「話してくれてありがとう」と伝え合う
二人のルールをつくる
治療が長期化すると、日常のすべてが治療中心になりがちです。二人の関係を守るために、ルールを決めておくことが助けになる場合があります。
- 治療の話をする日時を決める(例:週末の夕食後の30分だけ)
- 治療の話をしない日も意識的につくる
- お互いの「これ以上は無理」というラインを尊重する
- 治療方針の大きな決断は、必ず二人で話し合ってから進める
- 定期的に、治療とは関係のない二人の時間を持つ
専門家の力を借りるという選択肢
二人だけで話し合うことが難しいと感じたら、第三者の力を借りることも有効な方法です。
- 不妊カウンセラー:不妊治療専門の心理カウンセラー。多くのクリニックに在籍しており、夫婦で受けられるカウンセリングもあります
- ピアサポート:同じ経験をした当事者同士で話す場。自治体やNPOが運営しているものもあります
- 心療内科・精神科:気分の落ち込みが強い場合や、日常生活に支障が出ている場合は、医療的なサポートも選択肢になります
「カウンセリングを受ける」ことに抵抗がある方もいるかもしれませんが、二人の関係をより良くするための前向きな行動のひとつです。
温度差があっても、二人でいることに意味がある
パートナーと完全に同じ気持ちでいることは、現実的には難しいかもしれません。それでも、温度差があること自体を否定せず、「違いがあるけれど、一緒に向き合っている」という感覚を共有できることが、二人の支えになるのではないでしょうか。
治療の結果がどうなるかは、誰にも分かりません。でも、この時間をどう過ごすかは、二人で選ぶことができます。
パートナーとしてできること
「何をすればいいか分からない」と感じている方へ。すべてを完璧にこなす必要はありません。小さなことから始めてみてください。
- 通院日をカレンダーに入れて把握する
- 治療の基本用語を一緒に調べる
- 判定日の結果を待つ間、そばにいる
- 自分の精液検査を率先して受ける
- 家事の分担を見直す
- 「つらい」と感じたら、自分もカウンセリングを受けてよい
