顕微授精(ICSI)の仕組み

顕微授精(ICSI: Intracytoplasmic Sperm Injection)は、体外受精の一つの方法です。通常の体外受精(コンベンショナルIVF)では卵子と精子を一緒に培養して自然に受精を待ちますが、ICSIでは1個の精子を極細のガラス針で卵子に直接注入します。

「精子を卵子に注射する」と聞くと大がかりな処置に感じるかもしれませんが、すべて培養室の中で胚培養士が顕微鏡下で行う作業です。患者さんにとっての身体的な負担は、通常の体外受精と変わりません。採卵までの流れ(排卵誘発→卵胞チェック→採卵)は同じです。

通常の体外受精(IVF)との違い

違いは「受精させる方法」にあります。

  • 通常のIVF:卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子が自力で卵子に入るのを待つ
  • ICSI:培養士が1個の精子を選び、ガラス針で卵子の中に直接注入する

どちらの方法で受精させるかは、精液の状態や過去の治療歴をもとに医師が提案します。施設によっては、採卵で得られた複数の卵子を「半分はIVF、半分はICSI」で受精させるスプリット法を行うこともあります。

ICSIが適応されるケース

  • 男性不妊:精子の数が少ない(乏精子症)、運動率が低い(精子無力症)、形態異常が多い場合
  • 過去のIVFで受精しなかった場合:通常のIVFを行ったが受精卵が得られなかった場合(受精障害)
  • 精巣内精子回収術(TESE)で得た精子を使用する場合:射出精液に精子がいない(閉塞性・非閉塞性無精子症)場合に精巣から直接採取した精子を使用
  • 凍結精子を使用する場合:凍結・融解の過程で運動率が低下していることがある
  • 卵子の成熟度の問題:卵子の透明帯が厚い場合など、精子が自力で入りにくいと判断されたケース

受精率と成功率

ICSIによる受精率は70〜80%程度とされています(全ての卵子が受精するわけではありません)。受精後の胚の発育や妊娠率は、通常のIVFと大きな差はないとされています。

ただし、ICSIが適応されるケースは精子側に課題があることが多いため、単純に成功率を比較することは難しい面があります。年齢、卵子の質、胚の質など複数の要因が関わるため、個々の状況に合わせた判断が大切です。

費用の目安

ICSIは2022年4月から保険適用になりました。

  • 保険適用(3割負担)の場合:体外受精の費用に加え、顕微授精の技術料として数万円〜10万円程度が加算されます
  • 体外受精1周期全体の自己負担額の目安:15万〜25万円程度(保険3割負担の場合。薬剤や検査の内容により変動)

高額療養費制度を利用すれば、月ごとの自己負担額に上限が設けられます。費用面で不安がある場合は、家計管理と助成金の記事もご参照ください。

パートナーの方へ

ICSIは男性不妊が理由で選択されることが多い治療法です。「自分の精子の状態が原因で、パートナーにより負担の大きい治療を受けさせている」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

不妊治療は二人のための治療です。原因がどちら側にあっても、それは誰のせいでもありません。ICSIは、精子の状態に合わせて最も妊娠の可能性を高める方法を選んだ結果であり、前向きな選択です。

通院の付き添い、治療スケジュールの共有、家事の分担など、できることは数多くあります。「何かできることある?」と聞いてみることが、一番のサポートになります。

子どもの健康への影響について

「顕微授精で生まれた子どもの健康は大丈夫か」という不安は、多くの方が持つ自然な疑問です。

現時点の研究では、ICSIで生まれたお子さんと自然妊娠で生まれたお子さんとの間に、重大な健康上の差は報告されていません。ただし、長期的なフォローアップ研究は現在も進行中であり、最新の知見については主治医に確認することをお勧めします。

この記事のポイント

  • ICSIは精子を卵子に直接注入する方法。身体的負担は通常のIVFと同じ
  • 男性不妊や受精障害がある場合に適応される
  • 保険適用で受けられる
  • 受精率は70〜80%程度
  • 原因がどちら側にあっても、二人の治療として取り組むことが大切

体外受精全体の流れと費用については体外受精の費用とスケジュールを、治療のステップアップについてはステップアップの流れもご参照ください。

出典

  • 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
  • 日本産科婦人科学会 ARTデータブック