良好な胚を戻しているのに — そのもどかしさ
体外受精で良好な胚(グレードの高い胚盤胞)を移植したのに、着床しない。一度ならまだしも、複数回繰り返すと、「なぜうまくいかないのか」というもどかしさは大きくなります。
一般的に、良好な胚盤胞を2回以上移植しても妊娠に至らない場合を反復着床不全(RIF: Repeated Implantation Failure)と呼びます(定義は施設により若干異なります)。
この記事では、反復着床不全の原因として考えられることと、対策の選択肢を整理します。
着床しない原因として考えられること
1. 胚の質(染色体異常)
見た目が良好な胚でも、染色体に異常がある場合があります。PGT-A(着床前検査)で染色体が正常な胚を選別してから移植する方法があり、原因の特定と対策を同時に進めることができます。なお、年齢とともに染色体異常胚の割合が変化することが知られていますが、検査によって「移植すべき胚」を見極められるようになっています。詳しくはPGTの記事をご参照ください。
2. 子宮内膜の問題
- 慢性子宮内膜炎:自覚症状がなくても、子宮内膜に慢性的な炎症がある場合。抗生剤で治療できることが多い
- 子宮内膜ポリープ:小さなポリープが着床を妨げている場合。子宮鏡で確認・除去できる
- 子宮内膜の受容性のズレ:着床の窓(最適なタイミング)がズレている可能性。ERA検査で確認できる
- 子宮内フローラの乱れ:EMMA/ALICE検査で確認できる
3. 免疫的要因
近年注目されている分野です。
- Th1/Th2バランス(免疫細胞のバランス)の偏り
- NK細胞の活性が高い場合
- 抗リン脂質抗体症候群
免疫的な原因に対する治療(タクロリムス、IVIG等)はまだエビデンスが確立途上のものも多く、施設によって方針が異なります。主治医と十分に相談してください。
4. 子宮の形態異常
子宮中隔や双角子宮など、先天的な子宮の形態異常が着床に影響する場合があります。MRIや子宮鏡で確認できます。
5. 血液凝固の異常
血液が固まりやすい体質(血栓性素因)があると、胎盤の形成に影響する可能性があります。ヘパリンやアスピリンの使用が検討されることがあります。
追加の検査オプション
- 子宮鏡検査:子宮内腔を直接観察し、ポリープ・癒着・内膜炎を確認
- ERA検査:着床の窓のズレを確認
- EMMA/ALICE検査:子宮内の細菌環境を確認
- Th1/Th2検査:免疫バランスを血液検査で確認
- 抗リン脂質抗体検査:血液凝固異常のスクリーニング
- ビタミンD検査:不足が着床率に影響する可能性
対策の選択肢
検査結果に基づいて、以下のような対策が検討されます。
- 慢性子宮内膜炎 → 抗生剤治療後に再移植
- ERA検査でズレあり → 移植タイミングを調整
- 子宮内フローラの乱れ → ラクトバチルス製剤、抗生剤
- PGT-Aで正常胚の選別
- 子宮内膜スクラッチ(意図的に軽い傷をつけて着床環境を変える。エビデンスは議論中)
- 免疫治療(施設による)
何度移植しても着床しないときの心の持ち方
反復着床不全は、心身ともに消耗する経験です。「良い胚を戻しているのになぜ」という思いは、自分への責めにつながりやすい。
ここまで治療を続けてきたこと自体が、十分に努力を重ねてきた証です。着床のメカニズムは医学的にもまだ完全には解明されていない領域であり、結果が出なかったのは「最善を尽くしたうえでの現在地」です。
治療疲れを感じている場合は、治療疲れの記事や治療をお休みする記事もご参照ください。
パートナーの方へ
移植が不成功に終わったとき、「次がんばろう」は善意からの言葉ですが、今はまだその段階にないかもしれません。まずは「つらいよね」と受け止め、次のステップは落ち着いてから一緒に考えましょう。
具体的にできることとして:
- 判定日の付き添い — クリニックの待合室で一緒に待つだけでも支えになる
- 結果が出た日の夜は、家事を全面的に引き受ける
- 次の診察の前に「一緒に先生に聞きたいことある?」と声をかける
- 追加検査の情報を自分からも調べて共有する
この記事のポイント
- 反復着床不全は胚・子宮内膜・免疫など複数の原因が考えられる
- 追加検査で原因が特定できることがある
- 原因に応じた対策の選択肢は複数ある
- 着床しなかったことは、あなたのせいではない
先進医療の検査については先進医療の記事をご参照ください。
出典
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
- 日本産科婦人科学会 ARTデータブック
