人工授精とは
人工授精(IUI: Intrauterine Insemination)は、精液を洗浄・濃縮したうえで、排卵のタイミングに合わせて子宮内に直接注入する治療法です。タイミング法と体外受精の間に位置するステップとして広く行われています。
「人工」という名前に抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、受精そのものは体内で自然に起こります。精子が卵子に出会いやすい環境を整えるサポートだと考えてください。
人工授精を勧められるケース
- タイミング法を数周期試したが妊娠に至らなかった場合
- 精液検査で運動率や濃度がやや低い場合
- 頸管粘液の状態が精子の通過に影響している場合
- 性交のタイミングが合わせにくい場合(仕事のスケジュールなど)
- 原因不明不妊(検査で明確な原因が見つからない場合)
ただし、卵管が両方とも閉塞している場合や、重度の男性不妊の場合は、人工授精よりも体外受精が適しているとされています。
治療の流れ
1. 排卵誘発(必要に応じて)
自然排卵周期で行う場合もありますが、排卵誘発剤(クロミフェンやレトロゾールの内服、またはHMG/FSH注射)を使用して卵胞の発育をコントロールする場合もあります。
2. 卵胞チェック
超音波検査で卵胞の大きさを確認し、排卵のタイミングを予測します。卵胞が18〜20mm程度に成長したら、排卵が近いサインです。
3. 精液の採取・洗浄
当日にクリニック内または自宅で精液を採取します。採取した精液は洗浄・濃縮処理を行い、運動性の良い精子を集めます。
4. 注入
細いカテーテルを使って、洗浄済みの精子を子宮内に注入します。処置自体は1〜2分程度で終わります。
5. 黄体補充(必要に応じて)
排卵後にプロゲステロン(黄体ホルモン)の補充を行う場合があります。
痛みについて
人工授精の処置で強い痛みを感じる方は少数です。子宮口にカテーテルを通す際に、軽い違和感やチクッとした感覚がある方もいますが、多くの方は「思ったより痛くなかった」と感じています。
処置後はそのまま帰宅できるクリニックがほとんどで、安静にする必要は基本的にありません。処置後に軽い出血がある場合もありますが、通常は心配いりません。
成功率の目安
人工授精1回あたりの妊娠率は、一般的に5〜15%程度とされています(年齢や原因によって異なります)。この数字を聞くと「低い」と感じるかもしれませんが、自然妊娠の1周期あたりの確率(健康なカップルで約20%)と比較すると、大きくかけ離れた数字ではありません。
累積妊娠率で見ると、3〜6回の実施で妊娠に至る方が多いとされています。6回を超えても妊娠しない場合は、体外受精へのステップアップが検討されることが一般的です。
パートナーの方へ:成功率の数字を見て不安になることもあるかもしれません。大切なのは、数字に一喜一憂するのではなく、「何回まで試すか」「次のステップをどうするか」を二人で事前に話し合っておくことです。
費用の目安
人工授精は2022年4月から保険適用になりました。
- 保険適用(3割負担)の場合:1回あたり5,000〜10,000円程度
- 排卵誘発剤の費用:使用する薬によって数千円〜数万円
- 保険適用の回数制限:なし(年齢制限もなし)
ただし、排卵誘発のための注射や超音波検査が別途かかる場合があるため、事前にクリニックに費用の全体像を確認しておくと安心です。
仕事との両立
人工授精は通院回数が比較的少なく(1周期あたり2〜4回程度)、処置自体も短時間で済むため、体外受精に比べると仕事との両立がしやすい治療です。
- 卵胞チェックの通院は早朝対応のクリニックを選ぶと調整しやすい
- 処置当日も通常は半日程度の休みで対応できる
- お子さんがいる方は、保育園や幼稚園の時間内に通院が完了する場合が多い
人工授精で気をつけたいこと
- 多胎妊娠のリスク:排卵誘発剤を使用した場合、複数の卵胞が育つことがあり、多胎妊娠のリスクがあります。PCOSの方は排卵誘発への反応が強く出やすい傾向があるため、OHSSのリスクも含めて主治医と卵胞数を確認しながら進めることがポイントです
- 精液の状態は毎回異なる:同じ方でも体調やストレスによって精液所見は変動します。1回の結果で落ち込まず、継続的に確認していくことが助けになります
この記事のポイント
人工授精は、タイミング法の次のステップとして、心身への負担が比較的少ない治療法です。保険適用で費用も抑えられます。成功率は1回あたり5〜15%ですが、複数回の実施で累積的に確率が上がっていきます。
治療ステップアップの全体像はステップアップの流れで解説しています。保険適用の詳細は保険適用まとめをご参照ください。
出典
- 日本生殖医学会「生殖医療の必修知識」
- 厚生労働省「不妊治療の保険適用について」
